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「公共のベールと財政赤字の影響」

政府が、今年の所得税を減税するにもかかわらず政府支出を変更しないならば、財政赤字が増加する。この財政赤字は納税者の負担になる。債務の利子支払いや債務自体を償還するために将来、(財政赤字がない場合に比べると)税金は増加しなければならない。今年の減税のかわりに将来は高い税金を支払わなければならなくなる。すなわち生涯の総所得が変わらないことを納税者が知っているならば、(政府支出を一定に維持したままの)減税は消費にまったく影響を及ぼさないだろう。明らかにこれはいままで学んできたライフサイクル・モデルをも超えた考え方である。それらの理論によれば、一時的減税な生涯の資産に対して(少ないにしても)影響を及ぼすので、現在の総消費にわずかながらも効果を与える。
所与の政府支出の財源を調達するために、政府が課税をするか借入れをするかは、現在の消費には何らの違いももたらさない(すなわち両者は等価である)という考え方は、比較優位の原理を発見した19世紀イギリスの経済学者デイヴィッド・リカード(David Ricardo)にちなんでリカードの等価定理と呼ばれている。リカード自身は等価定理は不適切であったとして後になって撤回したが、近年ハーバード大学のロバート・バロー(Roaert Barro)により復活し、大きく取り上げられることとなった。
リカードの等価定理に基づくならば、アメリカでは1980年代の政府借入れの激増によっえ民間貯蓄は激増したはずである。合理的個人ならば、財政赤字を知ったときには、将来のいつかの時点で増税があることを予想し、それを支払うために資金を貯蓄するはずである。しかしアメリカの民間貯蓄率は、増加を示すどころか、1980年代を通じて低いままだった。
リカードの等価定理が成立しなかった理由はいくつか考えられる。多くの人々は、モデルが想定するようには将来を見通して行動したりはしない。また多くの納税者は、財政赤字の本当の大きさをあまり理解しておらず、将来の高い税金という結果まで考えが及んでいない。企業のなかで進行している事態が十分に理解されないことを「法人のベール」と呼んだように、財政赤字の帰結について人々が十分に理解しておらず、それを相殺するような対応をしないことを、「公共のベール」があると言う。
公債を償還する負担を将来世代に先送りするならば(しかも親の世代がこれを考慮して子孫への遺産を十分に増やすことをしないならば)、減税は現在世代の資産が増加したことを意味し、したがって現在世代の総消費は増加するのである。
-スティグリッツ「マクロ経済学」第9章財政金融政策より
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  1. 2015/06/24(水) 08:33:25|
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